月下星群 〜孤高の昴

      “振り返るには まだ早い”
  


大きな手を頭の後ろへ回しての手枕にし、
ごろり、横になった甲板は、
背に触れる芝の感触が上質の絨毯のように心地よく。
視野の隅にギリギリでかかる主帆柱の頂上には、
見張り用の遠見の小部屋の底が見えて。
単独巡航用のボートやら潜水艇やら、
鍵のついた冷蔵庫とやらに、巨大な生け簀に、
およそ無いものは無いのではなかろうかというほどに、
クルーたちのリクエストをフォローしまくったとんでもないこの船が、
これからの彼らの“塒(アジト)”となる。

 『ゴーイングメリー号に出来てこの船に出来ないことは無い』

船大工の新入りは、そりゃあ偉そうに胸を張り、そうと豪語したもので。
アッパーヤードという間欠泉もどきの潮流に乗って、
成層圏にも間近い空島へも昇った。
深海へと沈んだ船へサルベージにも潜った…のは正確には乗組員がだったが、
それらさえクリアせんという機能をつけたる負けず嫌いは、
いっそウチのカラーには似合いの性で。

 “こうまでデカイ所帯になっちまおうとはな。”

いやいや、まだまだ。
こんだけの賞金がついた海賊団にしちゃあ、
全くの全然頭数は足りて無いかもなんですが。(苦笑)
逆に言ったら…両手に足りなくとも少数精鋭。
一味のペットなんてな把握をされてる、
日頃はそりゃあ臆病で用心深いトナカイドクターまでもが、
仲間の危機には鬼でも倒すと、真剣本気で死力を尽くす。
頼もしいったらない一味だって訳で。

 「………。」

おやおや? それじゃあ何か不服でしょうか。
あの懐かしい、出会いの場となった、海軍基地のあった島にて、
まだたった二人しかいないのに、
海賊団の旗揚げとは何だそりゃと呆れたのは、
確かあなたではなかったか。

 “…うっせぇな。”

ここまで語れば誰かも明白。
その眉間へ、それもまたトレードマークになりつつある、
深いしわを刻んだまんまの。
そう遠くはない未来においての大剣豪様が、
何へか機嫌を微妙に傾けて、
どんどん後ろへ流れゆく、雲の群をば ぼんやり眺めておいで。

 “………。”

そう。最初はたった二人で始まった一団で。
そんな無謀な船出をした海賊団が、なのに。
巡り来た波乱と共に、
看過出来ずに飛び込んだ戦いと共に、
痛い目も見たが強かに鍛え上げられての腕を上げ、
心雄々しき仲間もそのたびに増えた。
破天荒なカラーを、
そうでないといけないかのよに保ったまんま。
そうと言ったら誰もが否定するだろけれど、
何処かが立派に、あの船長と似た者同士の、
困ったクルーらが はや7人。

 “ああ、そうさな。たった二人で旗揚げかって呆れたわな。”

中にはどうあっても馬が合わない奴もいるが、
それでもそれぞれ、腕や気力で、根性で、
ルフィが見込んだ頼もしい連中で。
自分としては特に居なけりゃ困るという奴もいないのだけれど。
この広大なグランドラインを航行するには、
それに耐え得る船とクルーはどうしたって要るのだと。
そういや常に言われ続けてたそれを、
着々と手に入れてっただけの話なのにね。

 “…。”

手こぎボートに帆をつけただけなような、
狭苦しくて頼りなかった、
あんな船での二人きり。
航海士もいなきゃあ、星も海流も読めない者のみの、
何とも危なっかしい航海が、
どうしてだろうか時々無性に懐かしい。
ルフィが風に飛ばしかけた麦ワラ帽子を、
大事なもんなら手放すなって、
捕まえたそのまま、ほれと手渡せた窮屈な旅が、
さほどには時も経ってないはずなのに、
いやに遠くなったような気がしてならず。
あ〜あ、それがどうしたってんだと、
可愛げなくもふて寝をしかけた誰かさん。
そんな彼の閉ざされかかった視野の中、

 「…え?」

青いお空を背景に、
ひらんと舞ったは、見覚えのあり過ぎるアイテムで。
相当に高くなった見晴らし台から降って来たということは、

 「待て〜〜〜っ、帽子〜〜〜っ!!」

文字通りの追うように、
続いて伸びた…ぐんぐん伸びた手があったのだが、
いかんせん、風に泳いだ帽子にもてあそばれての
狙いがなかなか定まらなかったらしく。

 「あ〜〜〜〜〜っっ。」

相変わらずに、要領が悪いというか不器用だというか。
船が広くなりの、見晴らし台が高くなりのした分だけ、
帽子の逃げようにもあんな具合にバリエーションが増したと、

 “とっとと飲み込んでくんねぇか、キャプテン。”

やれやれと立ち上がり、船端へ向かった副長さんを眺めやり、

 「なあなあ、ロビン。あれ、ロビンのハナハナで取ってやれないのか?」

愛らしくもかっくりこと、小首を傾げたトナカイさんへ、
考古学者のお姉様、はんなりと余裕の笑みを浮かべて、
いかにも楽しげにかぶりを振った。

 「出来なくはないわ。でも、してあげないの。」
 「? どうして?」

ゾロかルフィと喧嘩でもしたのかと、
見当違いなことを訊くトナカイさんへ、
うふふとますますのこと楽しそうに微笑ったお姉様であり。

 「おおお〜〜〜っ。喫水高いのに飛び込む馬鹿がいるか〜〜〜っ!」

こちらさんはまだ慣れてない船大工さんが、
いきなり海へと飛び込んだ剣豪さんへ大きに慌てて見せてもいて。
ああしまった、奴へ刷り合わせとくことがまだあったかと、
コックさんや航海士さんが、ああと顔を見合わせた。
呑気なんだか一大事なんだか、
とりあえずのマイペースで、

 「ゾロ〜〜〜っ、上がって来る方向見失うなよ〜〜〜っ!」
 「てめぇに言われたかねぇわっ!」

いかにも仲の良い、大声と怒声の応酬が鳴り響き、
今日も今日とて、我らが麦わら海賊団は、
お元気に順調に、航行中な模様でありますvv





  〜Fine〜  07.11.30.


 *何だかな〜。(う〜ん)
  海上Ver.も欲しいなと、ただそれだけを思って書き始めたんですが。
  考えてみたらば、私、
  新しいお船のことを、まだ殆ど知らないまんまでございましたわ。
(爆)
  アニメはオリジナルへ突入しちゃうしさぁ。
  そのアニメのOPでしか性能とか判らないままなんですけれど、
  どんなところが目玉な機能なんでしょか。
  いつぞやナミさんがアラバスタで憧れた、
  大浴場は果たしてついているのでしょうかしら。
(…そこかい)


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